福岡市やその近郊で、ご実家が空き家になっていたり、古くなった所有物件の解体工事を検討されたりする中で、「特定空家(とくていあきや)」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。
「ただの空き家と何が違うの?」「解体工事とどう関係があるの?」と疑問に思われるかもしれません。
実はこの「特定空家」、もしご自身の所有する空き家が指定されてしまうと、最悪の場合、固定資産税が最大6倍に跳ね上がり、最終的には行政によって強制的に解体工事が行われ、その高額な費用を全額請求されるという、非常に深刻な事態に陥る可能性があります。
特に2023年(令和5年)12月には法律が改正・施行され、規制がさらに強化されました。これは、福岡で解体工事を検討している方、あるいは空き家を所有するすべての方にとって他人事ではありません。
この記事では、福岡で解体工事を検討されている皆様へ、「特定空家」とは一体何なのか、指定されるとどうなるのか、そして解体工事との関係性や福岡市での対応について、詳しく解説していきます。
福岡で解体工事の前に知るべき「特定空家」とは?

まずは「特定空家」とは何か、法律上の定義から確認していきましょう。これは「空家等対策の推進に関する特別措置法(通称:空き家法)」という法律で定められています。
「特定空家」の定義と4つの基準
「特定空家」とは、通常の空き家とは異なり、以下の4つのいずれかの状態にあり、放置することが不適切であると市区町村(福岡市など)によって判断された空き家のことを指します。
- 保安上危険となるおそれのある状態
例:建物が傾いている、基礎に亀裂がある、屋根や外壁が剥がれ落ちそうで、倒壊や飛散の危険がある。 - 衛生上有害となるおそれのある状態
例:ゴミの不法投棄や放置により悪臭が発生している、害虫や害獣(ネズミ、ハクビシン等)が繁殖している。 - 著しく景観を損なっている状態
例:落書きだらけである、窓ガラスがすべて割れている、大量の雑草が建物を覆い尽くしている。 - その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
例:立木が隣家や道路にはみ出して通行を妨げている、不審者の侵入経路になっている。
これらの基準は、近隣住民の安全や生活環境に直接的な悪影響を及ぼすかどうかが焦点となります。
【2023年法改正】「特定空家」予備軍の「管理不全空家」とは?
2023年12月に施行された改正空き家法では、新たに「管理不全空家」という区分が設けられました。
これは、「特定空家」に指定される一歩手前の状態、つまり「放置すれば将来的に特定空家になるおそれが高い」と判断された空き家を指します。
この「管理不全空家」が新設されたことの最大の問題点は、後述する固定資産税のペナルティが、「特定空家」になる前の「管理不全空家」の段階から適用されるようになった点です。
これにより、行政はより早い段階で所有者に対して改善を求めることが可能になりました。
なぜ「特定空家」に指定されると解体工事が選択肢になるのか?
もし空き家が「特定空家」(あるいは「管理不全空家」)に指定されてしまうと、所有者は行政から改善のための「助言・指導」を受けます。
例えば「倒壊の危険」が理由であれば、修繕(リフォーム)や解体工事が主な改善策となります。しかし、著しく老朽化した空き家の場合、多額の費用がかかる修繕を選ぶよりも、根本的な解決策として「解体工事」を選択せざるを得ないケースが非常に多いのが実情です。
問題を放置し続けると、行政はより強い措置へと移行していきます。
「特定空家」に指定されるとどうなる?解体工事に至るまでの流れ

では、空き家が「特定空家」に指定されると、具体的にどのようなステップで事態が進行するのでしょうか。行政が最終的に解体工事(行政代執行)に至るまでには、以下のような段階的な措置が取られます。
ステップ1:助言・指導
まずは、福岡市などの行政担当者から、空き家の所有者に対して「このままでは危険・有害なので適切に管理してください」という内容の「助言」や「指導」が行われます。
この段階で所有者が真摯に対応し、例えば解体工事の業者に見積もりを依頼するなど、具体的な改善のアクションを起こせば、問題が大きくなることはありません。
ステップ2:勧告(固定資産税の特例解除)
助言・指導に従わず、状況が改善されない場合、行政は次のステップとして「勧告」を出します。
ここが非常に重要なポイントです。「勧告」を受けると、その空き家が建っている土地の「住宅用地特例」が解除されます。これにより、土地の固定資産税が最大で6倍に跳ね上がる可能性があります。
法改正により、この「勧告」は「特定空家」だけでなく、その手前の「管理不全空家」に対しても行われるようになりました。つまり、より早い段階でこの税金ペナルティが科されることになったのです。
ステップ3:命令
「勧告」を受けてもなお所有者が改善措置(修繕や解体工事など)を行わない場合、行政は「命令」を出します。
これは法的な拘束力を持ち、この命令に違反すると、50万円以下の過料(罰金)が科される場合があります。
ステップ4:行政代執行(強制的な解体工事)
「命令」にも従わず、危険が差し迫っていると判断された場合、行政は最終手段として「行政代執行」を行います。
これは、所有者の代わりに福岡市などの行政が、解体工事業者に依頼して強制的にその空き家を解体工事する手続きです。もちろん、その解体工事にかかった費用は、全額、所有者に請求されます。
所有者最大のデメリット:「特定空家」指定と解体工事の費用負担

「特定空家」や「管理不全空家」に指定されることは、所有者にとって「解体工事をせざるを得ない」という状況に追い込まれるだけでなく、深刻な金銭的デメリットをもたらします。
最大のペナルティ!固定資産税が最大6倍になる仕組み
前述の通り、最大のペナルティは固定資産税の増額です。通常、住宅が建っている土地(住宅用地)は、税金の優遇措置(住宅用地特例)が適用され、固定資産税が大幅に減額されています(例:200㎡までは6分の1)。
しかし、「管理不全空家」や「特定空家」として「勧告」を受けると、この特例が適用されなくなります。その結果、土地の固定資産税が、これまでの最大6倍になってしまうのです。
「解体工事をすると固定資産税が上がるから」と空き家を放置し続けた結果、解体する前に税金が上がってしまう、という最悪の事態になりかねません。
行政代執行による解体工事費用は、すべて所有者に請求される
「放置していれば行政が無料で解体してくれる」という考えは、大きな間違いです。
ステップ4の「行政代執行」によって解体工事が行われた場合、その費用(数百万円に及ぶこともあります)は、行政代執行法に基づき、全額が所有者に請求されます。
行政が発注する工事は、所有者が自ら優良な解体工事業者を探して見積もりを取る場合よりも、費用が割高になる傾向があるとも言われています。
費用が払えない場合、土地や財産が差し押さえられるリスク
もし、行政から請求された解体工事費用を支払うことができない場合、どうなるのでしょうか。
この費用は税金と同様の扱いとなり、所有者の給与や預金、そして最終的にはその土地(解体工事後の更地)など、他の財産が差し押さえられ、競売にかけられるなどして強制的に徴収されます。まさに、財産を失うリスクに直結するのです。
福岡市における特定空家と解体工事の補助金について

では、我々が住む福岡市では、どのような状況なのでしょうか。解体工事を後押しするような補助金制度についても気になるところです。
福岡市の空き家問題の現状
福岡市も例外ではなく、人口増加の一方で、郊外や古い住宅地では空き家が増加傾向にあるとされています。
市は「福岡市空家等対策計画」を策定し、空き家の実態調査や、「特定空家」の所有者への指導、活用の促進などに取り組んでいます。
福岡市で解体工事に利用できる補助金は?
「特定空家」の解体工事を検討する際、多くの方が補助金や助成金の利用を考えます。福岡市にも解体工事に関連する補助金制度は存在しますが、注意が必要です。
検索結果や市の情報(2025年11月現在)によれば、福岡市の補助金は、例えば以下のような特定の条件や目的に合致するものが中心となっています。
- 福岡市土砂災害等危険住宅移転事業補助金:土砂災害特別警戒区域など、危険な区域に建つ住宅の除却(解体)や移転を支援する制度。
- 福岡市ブロック塀等除却費補助事業:地震時に倒壊の危険がある、特定の基準を満たさないブロック塀の解体・撤去費用を補助する制度。
- 福岡市空き家活用補助金:市街化調整区域において、空き家を改修して子育て世帯などが定住する場合などに活用できる制度(解体が主目的ではない)。
他の自治体(例えば北九州市や筑後市など)で見られるような、「老朽化した危険な空き家」という理由だけで市内全域を対象に幅広く使える解体補助金は、福岡市では現時点(検索結果ベース)で限定的である可能性があります。
ご自身の空き家がこれらの特定の補助金(特に土砂災害等危険住宅)に該当するかどうかは、必ず福岡市の担当部署に確認する必要があります。
まずはどこに相談すべき?福岡県の相談窓口「イエカツ」など
空き家に関する悩みは、法律、税金、解体工事、不動産活用など多岐にわたります。どこに相談していいか分からない場合も多いでしょう。
福岡県では、空き家のワンストップ相談窓口として「ふくおか『イエカツ』(福岡県建築住宅センター内)」を開設しています。このような公的な相談窓口を利用し、ご自身の状況に合ったアドバイスを求めるのも一つの方法です。
もちろん、具体的な解体工事の費用や進め方については、信頼できる地元の解体工事業者に直接相談するのが最も早い解決策となります。
まとめ:特定空家になる前に、早めの解体工事検討を
今回は、「特定空家」と「解体工事」の関係性について、福岡市で解体を検討されている方向けに解説しました。
重要なポイントをもう一度まとめます。
- 「特定空家」や、その手前の「管理不全空家」に指定されると、行政から改善を求められる。
- 改善の「勧告」を受けると、固定資産税が最大6倍になるペナルティがある。
- 最後まで放置すると、行政代執行により強制的に解体工事が行われ、費用は全額所有者に請求される。
- 福岡市の解体補助金は、土砂災害危険区域など特定の条件に該当するものが中心。
「特定空家」に指定されてから慌てて対応するよりも、そうなる前に手を打つほうが、金銭的にも精神的にも負担は遥かに少なくて済みます。
もし福岡市内に所有する空き家が「特定空家」の基準に該当しそうだと感じたら、あるいはすでに近隣から苦情が寄せられているような場合は、手遅れになる前に、信頼できる解体工事業者に相談し、解体工事の見積もりを取得することから始めてみてはいかがでしょうか。


